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弁護士法人の破産上の注意点(東京ミネルヴァ法律事務所の破産を題材に)

 既にあちこちで報道されていますので、ご存じの方が多いとは思いますが、債務整理、過払金返還請求、B型肝炎給付金請求などを積極的に手掛けていた大手の弁護士法人東京ミネルヴァ法律事務所(東京都港区、代表弁護士川島浩)が、令和2年6月24日に、東京地方裁判所から破産手続き開始決定を受け、破産管財人に岩崎晃弁護士(第一東京弁護士会所属、岩崎・本山法律事務所)が選任されました。

 弁護士法人について破産手続きが開始されること自体めずらしいことですが(2019年の弁護士法人菅谷法律事務所(東京都)、2018年の弁護士法人村岡総合法律事務所(東京都)など数えるほどです)、東京ミネルヴァ法律事務所の破産は、負債総額が51億円あまりにのぼること、第一東京弁護士会が債権者として破産を申し立てたことでも特殊な事案です。

破産に至る経緯などについてはダイヤモンドオンラインの記事やデイリー新潮の川島弁護士のインタビュー記事が詳しいので、そちらをご参照ください。

https://diamond.jp/articles/-/241503

https://www.dailyshincho.jp/article/2020/07080801/

 

ここでは、「主な業種別破産の注意点」の番外編ということで、弁護士法人(または個人事業主である弁護士)が破産する場合の主な注意点を、簡単にですが確認してみたいと思います。

1 依頼者から受任している事件の引継ぎ先の確保

 弁護士法人と事件処理を依頼している依頼者との間の契約は委任契約ですので、弁護士法人について破産手続きが開始された場合、依頼者との委任契約は当然に終了することになります(民法653条2号)。
 弁護士法人が破産すると、依頼者は、着手金を支払って事件処理を依頼したのにもかかわらず、事件処理が終わっていない状態で放り出されてしまうことになります。

 このため、弁護士法人が破産する場合には、破産に伴い依頼者が被る不利益を最小限にとどめるために、あらかじめ受任中の事件の引継ぎ先を確保しておくことが望ましいと言えます(引継ぎ先の弁護士・弁護士法人が見つかれば、引継ぎに同意する依頼者とこの引継ぎ先との間で新たに委任契約を締結することになります)。

 ただし、引継ぎ先は弁護士であれば誰でもいいわけではなく、引き継いだ事件を適正かつ円滑に処理できるだけの体制が整っていることや、引継ぎによって依頼者がかえって不当に過大な出費を強いられたりすることがないように、依頼者と引継ぎ先との契約条件が適正であることなどが求められます。

 また、事件処理の重要部分が完了している事件については、破産しようとする弁護士法人が依頼者に対して成功報酬金の支払請求権を持っていたり、依頼者に返還すべき預かり金を管理していることもあるため、このような事件を破産申立て前に他の弁護士や弁護士法人に引き継ぐことは、債権者の配当に回すべき財産を不当に外部に流出させる行為と評価され、破産手続き開始後に破産管財人によって否認権を行使される可能性があります。

 以上のように注意すべき点が複数あるため、破産しようとする弁護士法人の準備としては、緊急性がある一部の事件を除いては、引継ぎ候補先の選定にとどめて、具体的な引継ぎ先の決定や引継ぎ作業自体は破産手続き開始決定後に破産管財人に任せたほうが無難と言えるでしょう。

これは、破産しようとする病院が入院患者の転院先を考える場合にも、同じように注意を払わなければならないのと近い状況といえます(病院が破産する場合の注意点については、「病院・歯科医院が破産する場合の注意点」にてご確認ください。)。

 東京ミネルヴァ法律事務所では、弁護士法人の解散前の令和2年5月頃から、一部の依頼者と東京ミネルヴァ法律事務所に所属していた樫塚紘之弁護士個人との間で新たに委任契約書が取り交わされ、委任契約を切り替えていたようです。樫塚弁護士も開設した新事務所(樫塚紘之法律事務所)のホームページで依頼者を引き継いだことを認めています。

 樫塚紘之法律事務所のホームページ
 https://augusta-law.com/

 これは本来であれば依頼者が放り出されないための措置として歓迎されてもいいのでしょうが(この移管については実質支配者の主導ではなく、依頼者保護のために行われたものとの情報もありますが、その真偽は不明です)、東京ミネルヴァ法律事務所は依頼者からの預り金の横領を疑われていて、しかも樫塚弁護士は、同事務所に在籍し今回の破産に至る経緯等についても事情を知っていると思われる人物です。

 このような状況では、樫塚弁護士に引き継いだ事件の適正な処理が期待できるとは言いにくいところがありますし、一部とはいえ東京ミネルヴァ法律事務所が抱えていた膨大な数の事件を樫塚弁護士の新事務所(樫塚紘之法律事務所)で処理することは、非弁業者などのバックアップがなければ、現実的には不可能ではないでしょうか。

 また、引き継いだ事件の選別基準ははっきりしませんが、仮に事件処理がかなり進んでいた案件などお金になる事件を中心に選別したうえで引き継いで、東京ミネルヴァ法律事務所が管理していた預かり金などを樫塚弁護士名義の預かり金口座に移管していれば、今後、破産管財人によって否認権が行使されたり、引き継いだ依頼者との間で金銭トラブルが起こったとしてもおかしくありません。

 しかも、樫塚弁護士は、新事務所のホームページの中で、樫塚紘之法律事務所を弁護士法人オーガスタに法人化する予定があることを予告しています。この法人化の目的ははっきりしませんが、樫塚弁護士が東京ミネルヴァ法律事務所からそのまま事件を引き継いだ実態を不透明にして、破産管財人や依頼者の追及を難しくさせる意図があるようにも見れます。

 これらの事情からすれば、東京ミネルヴァが弁護士法人の解散前の5月頃に事務所内で事件を樫塚弁護士に引き継がせたことが、混乱を防ぐための最善の手段だったかどうかについては追って検証する必要があるでしょう。

 もちろん、樫塚弁護士が、東京ミネルヴァ法律事務所から引き継いだ事件の処理を適正に行えるだけの体制を整えて最後まで事件処理を完了する可能性もありますので、現時点では何とも言えませんが、東京ミネルヴァ法律事務所や樫塚紘之弁護士に依頼している方でご不安な方は下記の臨時相談窓口にご相談されたほうがいいでしょう。

  第一東京弁護士会 臨時相談窓口 
  電話番号:03-3595-8508
  受付時間:月曜日~金曜日の
       午前10時~午後4時まで

2 依頼者から受け取った着手金と成功報酬金の処理

 1でお話したとおり、弁護士法人について破産手続きが開始された場合には、弁護士法人と依頼者との間の委任契約は破産の開始により終了しますが、その時点で依頼を受けていた事件の処理はいくらか進んでいます。
 また、我々弁護士は、依頼者から依頼を受ける際に、着手金として一定額を受け取っているのが通常です。

 そのため、破産手続きの開始に伴い事件処理が途中で終了した場合には、依頼者との間の金銭の清算を、どのように処理するのかが問題になります(東京ミネルヴァ法律事務所の破産でも、少なくとも破産手続き開始の時点で樫塚紘之弁護士に切り替えられずに、東京ミネルヴァ法律事務所に残ったままの受任事件については、この点が問題になります)。

 この処理について、依頼者との委任契約上は「委任事務処理の程度に応じて清算を行う」というような抽象的な内容の契約条項が設けられているのが通常ですので、清算方法は事件の進捗状況に応じて、大きく3つに分かれることになります。

⑴ 事件処理を依頼して間もない場合

 依頼者が、弁護士法人と契約して着手金を支払った直後や依頼して間もない場合には、着手金に見合うだけの事件処理をしていないことになります。

 そのため、依頼者は、破産する弁護士法人の破産管財人に対して、弁護士法人の破産によって委任契約が終了したことで、着手金の全部または一部の返還を求める余地があります(委任契約によっては、「理由のいかんを問わず着手金は返還しない」と規定されていることもあり、この場合には着手金の返還を求めるハードルは高いでしょう)。

 ただし、この着手金の返還請求権は破産債権にすぎないため、破産手続きの中で債権額に応じた配当(通常は数パーセント)を受ける可能性があるにとどまり、優先される共益債権や財団債権への弁済を行った後に残余財産が残っていなければ、配当を受けられない可能性もあります。

⑵ 依頼した事件の処理が進んでいるものの、完了まではまだかかる見込みの場合

 弁護士法人が依頼を受けた事件処理を進めている途中ではあるものの、完了に伴う成果が得られる見込みまではわからない段階で、弁護士法人の破産によって委任契約が終了する場合もあります。

 この場合、支払済みの着手金に見合う以上に事件処理が進んでいたと判断されれば、着手金の返還求めることは一部であってもできないことになります。
 場合によっては、破産する弁護士法人の破産管財人に対して、着手金に見合う範囲を超えて行った業務の割合に応じて報酬を支払う必要が生じます。

 そのため、破産する弁護士法人の破産管財人は、着手金に見合う範囲を超えて業務が行われていたかどうかを見極めたうえで、依頼者に対して、出来高部分に対する報酬を請求するかどうかを決めることになります。

 ただし、受任から破産による契約終了までの間に行った業務内容を適正に金銭評価することはかなり困難な作業ですので、話し合いによる交渉に委ねられるところも大きいでしょう。

⑶ 依頼した事件処理の重要部分が完了している場合

 依頼した事件処理の重要部分が完了し、依頼者が成果を得られる見込みが生じている場合に、着手金の返還求めることができないのはもちろんですが、委任契約で成功報酬が約束されていれば、事件処理が終了した時点で弁護士法人のほうに成功報酬金の支払請求権が発生しています(民法648条の2第2項参照)。

 そのため、弁護士法人の破産管財人が、事件処理の重要部分が完了していたと判断すれば、依頼者に対して成功報酬金あるいは成功報酬金に相当する出来高の支払いを求め、依頼者がこれに応じなければ訴訟を起こす可能性もあります。

 東京ミネルヴァ法律事務所でも、多くの契約で着手金とは別に成功報酬金が発生する報酬体系になっていたようですので、破産管財人が、事件処理の重要部分が完了していたと判断すれば、依頼者に対して成功報酬金の全部あるいは一部に相当する金銭の支払いを求めてくる可能性はあります。

3 弁護士法人が保管している預り金の処理

 弁護士法人は、依頼された事件の処理を通じて、依頼者や相手方などから金銭を受けることがあり、この預り金は、依頼者の要求があったとき、または遅くとも受任事件が終了した時点で、依頼者に返還する必要があります(民法646条、645条)。

 そのため、弁護士法人が破産を申し立てる時点で、依頼者に返還していない預り金がある場合には、依頼者は、弁護士法人に対して、預り金の返還請求権を持っていることになります。この弁護士法人の預り金の性質は、信託財産と一般的に理解されています。

 弁護士法人の預り金は信託財産であるがゆえに、他の財産との分別管理が求められ(信託法32条)、日弁連の預かり金等の取り扱いに関する規程では、預り金口座の開設と弁護士会への届出が義務づけられています(同規程3条)。
 そして、弁護士法人の預り金については、分別管理義務が履行されている限り、弁護士法人が破産したとしても信託財産の独立性を対抗でき、破産財団に帰属しないので、債権者への配当にも回されません(信託法25条1項)。
 その結果、預り金の返還請求権を持っている依頼者は、預り金の返還を求めることができます。

 
 しかし、これはあくまで預り金が分別管理されている場合の話です。


 東京ミネルヴァ法律事務所ではこの預り金の保管にも問題があり、代表弁護士(清算人)の川島浩弁護士はデイリー新潮のインタビューで、31億円ほどの預り金が流用されていたことを認めています。
 この話が本当であれば、預り金は分別管理されずに流用されているのですから、信託財産であることを他の債権者には対抗することができず、破産財団の中に組み込まれ、配当に回されることになる可能性が高いと思われます。

 この場合、依頼者が弁護士法人に対して持っていた預り金返還請求権は、損失填補(原状回復)請求権となり(信託法40条1項)、これは破産債権にすぎないことになります。破産手続きの中で債権額に応じた配当(通常は数パーセント)を受ける可能性があるにとどまり、優先される共益債権や財団債権への弁済を行った後に残余財産が残っていなければ、配当を受けられない可能性もあります。

 加えて、損失填補請求権に基づく配当は信託財産に帰属するものであるから、受益者(依頼者)ではなく、新受託者あるいは信託財産管理者を選任し、この者が受け取らなければならないというようなややこしい話もあります。

 
 この意味では、東京ミネルヴァ法律事務所が依頼者の預り金を流用した行為は、依頼者全体の信用を裏切る罪深い行為といえるでしょう。

 


 以上が、弁護士法人が破産する場合の主な注意点になります。

 実際には検討しなければならない事項はもっと多岐にわたりますが、これ以上書くととりとめがなくなりそうなので、このくらいにしておきます。

 東京ミネルヴァ法律事務所については破産が申し立てられた時点でも多数の事件を抱えていたことは間違いないでしょうし、弁護士法人の解散前に樫塚紘之弁護士に引き継がれた事件をどのように処理するのかという問題もあるので、依頼者との契約関係の整理だけでもかなり大変な作業になってくると思います。

 今後、破産管財人の業務を通じて、東京ミネルヴァ法律事務所が51億円余りの債務を負って破産することになった原因、横領の実態や流失した多額の金銭の行方、樫塚紘之弁護士への引継ぎの経緯などの実態が明らかにされ、より多くの財産が確保されて債権者に対する配当が実施されることが望まれます。

 個人的には、今回の破産の黒幕と囁かれている広告会社に対して配当が実施されるのかどうか、横領の事実で刑事事件にまで発展するのかどうかなど興味は尽きません。

今回は弁護士法人が破産する場合の注意点について確認してみましたが、そのほかの主な業種の破産する場合の注意点が気になる方は、当サイトのトップページの「主な業種別破産の注意点」にてご確認ください。

また、当事務所のホームページにもミネルヴァ法律事務所の破産関連の記事をあげていますので、そちらも良ければご参照ください。

(弁護士 原一好)