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医療機関初のコロナ倒産の分析

 7月27日付の報道で、岸本整形外科医院(岡山県真庭市久世2829、岸本真院長)が7月21日に岡山地方裁判所津山支部に自己破産を申し立てたことが明らかになりました。

 負債総額は債権者26名に対して約3億3000万円にのぼるとのことで、医療機関としては全国初の新型コロナウィルス関連倒産になりました。

 東京商工リサーチのまとめによれば、7月22日時点の集計では、新型コロナウィルス関連倒産は、業種別では飲食業が53件で最多で、それにアパレル関連(43件)、宿泊業(40件)が続き、国内の移動自粛の影響を強く受けた業種の倒産が際立っています(詳細については、こちらをご確認ください)。

 しかし、今後は感染者が増加している地域を中心に医療機関(病院および診療所、歯科医院)の経営危機や倒産が深刻化するのではないかと囁かれており、地域の医療体制の崩壊が懸念されます。

 新型コロナウィルスの感染症の影響で、医療機関の経営危機や倒産が忍び寄っている要因としては、以下のようなものがあると考えられます。

1 感染症対策に伴う経営効率の悪化

 医療機関の経営が急速に悪化している要因の一つには、新型コロナウィルス感染症対策に伴う経営効率の悪化があります。

 現在の新型コロナウィルスの新規感染者は自宅療養や宿泊療養に割り振ることができる軽症の若い世代が多いものの、連日増加する患者で病院のベッドも埋まりつつあり、感染拡大地域にある感染症指定医療機関や入院協力医療機関では、重症化リスクの高い高齢者への感染拡大に備えてさらに一定数の空床を確保しておくことが求められています。

 また、感染患者の受け入れ体制を整えるとなると、新たな設備(マスク・フェイスシールドや防護服、心電図モニターなど)を購入して備えなければならないうえ、病床の個室化といった感染症対策のために、通常の入院用ベッドをつぶさなければならず、休止病床も増加することになります。

 人員の不足や集中治療室の確保の問題があるため、医療機関にとって大きな収入源である手術を実施することも制限されています。

 さらに、対象病床には通常よりも多くの人員を配置する必要があり、夜勤体制も万全にしなければならない一方で、防護服を身についている医療スタッフは一般病棟との掛け持ちが難しいため、人件費はかさむことになります。
 そのため、受け入れ病院では、人員不足から、外来診療や健診を制限したり、通常の入院患者の受け入れを減らしたりして対応しています。

 感染患者を受け入れている医療機関に限らず、医療機関では院内での感染拡大を予防するために、外来診療や健診を制限したり、感染予防のための設備を購入するなどの対応を迫られています。

 新型コロナウィルス感染症では、対応をひとつ間違えば感染患者が重症化に陥るリスクが大きく、また院内感染が起きるリスクもあるため、経営効率を考えながら対策をとれるような問題ではありません。

 しかし、これらの感染症対策が医療機関、とりわけ新型コロナウィルスの感染患者の受け入れ病院の大きな重しになって経営を圧迫する事態が引き起こされています。

2 感染警戒による受診控え

 では、コロナ患者を受け入れていない医療機関や新型コロナウィルスと関連の薄い診療科を受け持つ医療機関であれば、経営への打撃が少ないかというと必ずしもそうとはいえません。

 今回破産申立てが明らかになった岸本整形外科医院では整形外科・リウマチ科、・ハビリテーション科を設けていたため、一見すると新型コロナウィルスの影響はほとんどないよいようにも思えます。

 しかし、実際は、密による新型コロナウィルスの感染を警戒して、外来患者の受診控えが起こっているため、新型コロナウィルスとは関連が薄い医療機関でも診療報酬が激減して、経営体力の乏しい医療機関が続々と窮地に陥っているのです。

 今年の3月時点のデータになりますが、日経メディカル Onlineが医師会員3668人を対象に2020年3月13日~17日にかけて実施したアンケートでは、診療科別で前年同月比で「患者が減った・機能停止」との回答の占める割合の多い順に整理すると、小児科(科全体の78.0%)、整形外科(同63.7%)、消化器内科(同61.2%)になったとのデータもあります(詳細については、こちらをご確認ください)。

 岸本整形外科医院では、近年は外来診療のみに切り替えていたところで、4月以降の収入高は前年同月比で20%程度ダウンし、事業の継続が困難な状況に陥ったとのことですので、このアンケート結果に照らしても外来患者の受診控えの影響は少なくなかったものと思われます。

 それ以外にも、外出自体が控えられていることで、集団生活で広がりやすい感染症(インフルエンザ、かぜ、胃腸炎など)の機会が減ったことや、高齢者を中心に、怪我や脳梗塞・心筋梗塞のリスクが減っていることも外来患者の減少の一因になっているようです。

3 医療法人の低い利益率

 もともと医療機関の経営は莫大な初期投資が必要とされるビジネスモデルで、これを開業してから何年もかけて回収していくことを想定しています。

 しかし、医療機関では、賃料・人件費・医療機器のリース料などといった固定費の負担が重く、他の業種に比べて利益率は低くなっています。

 とりわけ医療法人は非営利法人であることから、他の業種に比べて利益率が圧倒的に低い水準にあります。

 厚生労働省が公表している第22回医療経済実態調査によると、個人が運営する病院の2018年度の利益率(損益差額率)は3.6%、診療所(無床)では30.4%ですが、医療法人が運営する病院の2018年度の利益率(損益差額率)は2.8%、診療所(無床)でも6.3%にとどまります。
(第22回医療経済実際調査の内容については、こちらをご確認ください)。

 ちなみに、個人の歯科診療所の利益率(損益差額率)は28.4%、法人の歯科診療所では9.1%となっています。

 そのため、医業収益が少し減少したり医業費用が少し増加するだけでも、医業利益は赤字に転落してしまい、経営体力の乏しい医療機関にとってはこれが深刻な経営危機につながります。

 一方で、医療機関の主な収入源である保険診療報酬は、公定価格として全国一律で診療行為ごとに点数(1点10円)が定められていて、医療機関が個別・独自に定めることができるものではないため、単価を上げることで医業収益を改善することはできません。

 また、医院経営では医業費用の中でも人件費がかなりの割合を占めていますが、現状では医業収益が減少していても、人件費を思い切って削減することは不可能です(東京女子医大病院では、全職員に対するボーナスの不支給の方針を一時打ち出しましたが、400人を超える看護師が退職を表明したため、結局これを撤回して「手当て」の名目でボーナスを支給することになりました)。

 そのため、今回のコロナ禍による突発的な医業収益の減少と医業費用の増加に対しては、有効な手立てを打つことができないのが現状です。

 医療機関の経営状況の悪化が深刻になっていることを裏付けるように、日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会の3団体が5月27日に公表した「新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況緊急調査」(最終報告)では、有効回答があった1203病院の4月の利益率はマイナス8.6%と大幅な赤字で、うち新型コロナウィルスの感染患者を受け入れた339病院は利益率がマイナス10.8%と報告されています(詳細については、こちらをご確認ください)。

 全国公私病院連盟(邉見公雄会長)が7月27日に公表した調査結果でも、とりわけ新型コロナウィルスの感染患者を受け入れた病院の医業利益の悪化が顕著になっていることが報告されています(詳細については、こちらをご確認ください)。

 医療法人は、公共性と非営利性を前提としているため、一般法人と異なり医業収入・医業収益の最大化を目的とはしていませんが、一般法人と同じく医業収益・医業利益があがらなければ安定した医療サービスの供給や事業の存続はままなりません。

 営利性を追求しておらず、十分な経営体力が乏しかった医療法人ほど、今回のコロナ禍による減収・減益の影響をもろに受けてしまい、閉院・倒産の危機に晒されるという憂き目に遭っているようです。 

 


 1から3で述べたような理由もあって、医療機関を取り巻く経営環境は日々厳しさを増しています。
 (今回の岸本整形外科医院についていえば、コロナ感染患者の受け入れ病院でも医療法人でもないので、同医院の倒産は2で述べた理由の影響が大きいでしょう)。

 医療機関に対する診療報酬は申請から約2カ月後に支払われるため、5月頃の時点ではまだ経営環境の悪化がそれほど目立っては現れてはいませんでしたが、6月頃からは医業収益が激減する病院が増えてくると言われていたタイミングで、今回の岸本整形外科医院による破産申立てが明らかになりました。

 そして、現在も新型コロナウィルスの感染拡大がおさまる気配がみられず、医療機関の経営収支の改善の目途がたっていないため、医療機関にとっては少なくとも年内は正念場といえそうです。

 このような現状で、万が一新型コロナウィルスの院内感染などが発覚すれば、外来診療も一部の緊急性のあるものを除き中止せざるを得なくなり、医院経営にとって致命傷になりかねません。

 また、診療所・病院に限らず、歯科医院についても、もともと過当競争の状況にあったところで、「歯科医院は感染リスクが高い」などといった情報に触れた受診控えが顕著になっていて、経営危機が深刻化しています。
 私の知り合いの開業歯科医の先生からも、来院患者が半分近くまで落ち込んだとの話をお聞きしていますので、歯科医院の経営危機もかなり深刻なレベルにまでなってきているのではないかと思います。

 もちろん、国もこのような状況を黙ってみているわけではなく、感染患者の外来や入院に対応した医療機関に診療報酬を上乗せする特例が継続されていますし、2020年度第2次補正予算では空床確保に対する補助をこれまでの3倍の一床5万円~30万円に引き上げられたほか、休止病床にまで補助を拡充したりや感染拡大防止策への補助を行うなどの支援策を打ち出してはいます。また、一部の自治体では独自の医療支援策も実施しています。

 しかし、コロナ禍がまだまだ長期化する様相を見せる中で、病院の減収分を補うにはまだ不十分との声や、今の経営環境では経営体力の乏しい医療機関の廃業や倒産はもはや避けられないとの声も聞かれます。

 今回の岸本整形外科医院の破産では、元々厳しい資金繰りを強いられていたところでコロナ禍がダメ押しになった感はありますが、コロナ禍による医業収入の減少と医業費用の増加に伴う経営リスクは医院の経営努力だけでカバーできるものではありませんので、コロナ禍がまだ続くことを念頭に国民全体で医療現場を支えていくという意識は必要でしょう。
 国や自治体には、これから第2、第3の医療機関のコロナ倒産が出てきかねない危機的状況にあることを意識して、より手厚い支援を打ち出してくれることを期待します。

 当サイトでは、医療機関・歯科医院が破産せざるを得なった場合の注意点についても紹介していますので、気になる方は、「病院・歯科医院が破産する場合の注意点」にてご確認ください。

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